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F <エフ> (1999.8.4)〔w〕 |
| 作 者 |
六田 登 |
| 連 載 |
小学館『ビッグコミックスピリッツ』 |
| 単行本 |
小学館ビッグコミックス[全28巻]
小学館文庫[全19巻] |
| ストーリー |
地元の名士赤城総一郎の庶子、軍馬は改造トラクターを無免で乗り回し、ソープランドへ入り浸り、お手伝いのユキとは昼間から同衾する不良であったが、筑波サーキットで無理に乗ったRCカーに衝撃を受ける。自動車教習所の教官、純子にコーチして貰いなんとか免許は取得するものの、常識の通用しない軍馬の性格はサーキットの中でも相変わらず多くの敵を作ってしまうが、幼なじみのタモツのメカニック技術を武器にFJの中で非凡な成績をおさめていく。 |
| 設 定 |
免許も持たないまったくの素人だったところからFJ・F3・F3000・F1と徐々にステップアップさせているのがうれしい。いきなりF3あたりからはじめられてはモータースポーツに関する知識を持たない人には何がなんだかわからないだろうし、このくらい大河性があった方が読み手としては楽しめる。F3000をあえてヨーロッパで走らせるところも面白いし、基本的な情況設定に問題点はない。
ネームもいい。舞台が国際的となる中盤以降では当然のように英語が登場して行くわけだが、オールマンの拙い日本語(画像を参照)もまさに英訳らしい横書きのセリフもなかなかリアリティに富んでいて面白い。一部活字にして欲しくない(手書きの方が味が出る)部分もあったが、全体的にストレスを感じずに読むことができ十分に合格点といえるだろう。
一方でサーキットとは全く関係ない場所で進むもう一つのストーリーには若干の問題点が見られる。豊田有里が"作家志望"というのもいささか安直な気がするし、赤木グループの関係者にはボケてしまったり復讐の鬼になったりと、人間的に精神が破綻してしまっている者が多すぎる。山口音也もそうだ。終了時には登場時の性格と全く違うものに変革してしまっていて、それがいささか強引に見えた。
余談になるが、F1にエントリーしてたGOCTのドライバーは軍馬一人だったのだろうか。セカンドドライバーは雇用しなかったのだろうか。同じことはチームメタモルフォーゼにも云えることだが(ロベルト・モレノ一人だけ)、ちょっと不自然だろう。 |
| シナリオ |
キャラクターの殺し方が巧みだ。主要な所では聖・ユキ・ピーボーの三人だが、男・女・子供と違ったキャラクターを「自分のため」「他人のため」「純粋な事故」とそれぞれ違った理由で殺している。通して読み返してみても死者が多いことに対するクドさや違和感はないし、逆に悲壮感を高める上でなくてはならない要素となっているだろう。普通のストーリーでは幸福と不幸を交互に織り交ぜることによって話にヤマを作っていくが、このようなシリアスなストーリーでは不幸と平穏を織り交ぜる(なにせ当初は妊娠さえも純子にとって「不幸」だったのだ)ことによって構成されることがよくわかる。
もう一つの特徴的な部分が、主人公軍馬とその周囲を追いながら並行的に父総一郎の過去や笠井と豊田有里の様子を挿入している点である。サコがジョージを刺し殺した直後のバーミンガムで軍馬が瀕死の重傷を負ったあと、イルカペイントのテストで黒井がクラッシュしたあとなど凄惨な事故があった後には展開を変える役割を担い、またマンネリ化しがちなレースシーンを分散させることによって緊張感を持続させ話に奥行きを生んでいる。下手に乱暴な伏線を張っておくよりもより計算されたストーリー展開が設計できると思われ、なによりこんな手法は長期連載でなければできないものでそういった醍醐味も味わいたいところだ。 |
| キャラクター |
なんといってもキャラクターを「捨てない」のが素晴らしい。FJ卒業と同時に出番のなくなった砂井、聖の死とともに関わりのなくなったルイ子、黒井のチームをやめた五郎、そして強制送還後のサコなどは全て後々に復活している。また軍馬に葛藤、雄馬に成長、将馬に変革とタイプの違うキャラクターに様々な役割を押しつけた。当初から設定づけられた性格とは違いわざわざページを割いて個性を定義づけているだけに、より人間臭いキャラクターができあがる。このような緻密な計算が作品のクオリティーを何倍にも押し上げているのだろう。
破綻があるとすれば、終盤における赤木総一郎の突然の変わり様である。「ボケるときはあんなものだ」といわれれば何も言い返せないのだが、あれだけ情熱的で野心的だったキャラクターをいきなり抜け殻のように扱っていいものだろうか。たとえ偉大だった父親の姿が軍馬の中で生き続けたとしても、たとえ彼の生まれ変わりあるいは入れかわりとして瑠璃を定義づけているのだとしてもそれは同様だろう。また、タモツと一時関係していたマリアという女性の位置づけにも問題がある。最初はもう少し重要な役割を担ってくるのかと思っていたが案外であった。全体的にレベルが高い作品なだけに逆にこういった部分が目立ってしまう。 |
| グラフィック |
女性には若干受け入れにくい絵柄だとは思う。スクリーントーンを多用せずスピード線やカケアミによって表現されているため、迫力を持たせるのと引き替えにどうしても全体的に黒ずんで見せてしまうし、洗練された絵柄ではないのでとっかかり悪く見えるのも否めないところだ。しかし背景や車体、風雪雨から噴煙まで臨場感たっぷりに見せつけてくれるタッチは見事なもので、多様な技術を適所に使い分けるセンスも逸品だ。象徴的なのが3人のキャラクターが死亡するシーンで、聖の死は敢えてラフなタッチ、ユキはビルの窓に映る特殊な構図、ピーボーの死後放心状態に陥る軍馬の部屋は無数のカケアミで描く。そのほかサーキットのパドックや精巧なフォーミュラマシンなど無機物の表現力には文句の付け所はない。
さらにこれだけの長期連載作品にも関わらず、絵柄の変化が比較的少ない。それが連載中の技量の進歩がなかったっということなのか、連載開始時のレベルがそもそも高かったっということなのかはわからないが、過去をフィードバックする手法を実に有効的に使用できるため結果的にはよいのではないかと思う。 |
| 装 丁 |
表紙の「F」の字に切り抜かれた写真はどれも迫力に満ちていて格好いい。今となっては懐かしいマールボロカラーのマクラーレンやキャメル色のベネトンなどの車体の美しさはもちろん、エンジンルームやピットレーンなどどれもドキッとするような構図で斬られている。最終巻のチェッカーフラッグはなかでも特徴的で、バックのきれいな青空の美しさとフラッグをふるいかにもFIAっぽいおっちゃんの背格好が印象的。カバーに特に注文を付ける部分はない。単行本の各巻号タイトルだけでなく一話一話のタイトルが全て「F」で始められているのはもちろんわかって頂けていることだろう。 |