ハンサムな彼女 (2000.1.5)〔w〕
作 者 吉住 渉
連 載 集英社『りぼん』
単行本 集英社りぼんマスコットコミックス[全9巻]
集英社漫画文庫[全5巻]
ストーリー  おとなりさんで人気アイドルの森本輝臣に憧れる女優の卵萩原未央は親友でトップアイドルの沢木彩たちと楽しく過ごしているが、輝臣や彩も出演する新作のテレビドラマの演出に熊谷一哉という少年が加わることになる。輝臣にふられてしまった時に慰めてもらい、またとかくキツく当たるのも一哉が自分の才能に期待しているのだということをわかっていくうちに未央は次第に一哉のことを意識するようになっていくのだが……。
設 定  漫画というのは絵と文字で表現する媒体であるので、当然情報量にも自ずと制限が出てくる。映画と違い実物に近いビジュアルを求めることはできないしセリフも特徴的な部分を切り取って表現する形になるが、その中でも少女マンガ独自の特徴として傾向的なストーリー構成が挙げられると思う。この作品も多分に漏れずそのクセを踏襲していて、とにかく新たなキャラクターがめまぐるしく登場することによってシナリオが進んでいくのだが、特徴的なのはそのキャラクターがいちいち誰かとくっついていくことだ。結局最後まで読んでいくとその流れを引きずった形でのオールハッピーになるのだが、その経過をストーリー上で表現しているところが評価できる。無論、反対にご都合的なシナリオになってしまうわけで、双方のいいとこどりをできるほどの表現力、構成力はここでは見られなかった。
 しかしオールハッピーへ向かわせるため、かなり精密な構成力を駆使している。例えばトップアイドル同士である彩と輝臣のカップルは当然デートをするのにも障害が大きいわけで、そのために輝臣をわざと年上に設定し車という小道具を利用できるようにした。また別れてしまうがこちらも芸能人である未央と収とのデートはポジティブな性格を収に設定づけることが公然とデートする場面の伏線として機能しているし、キースとジョディは開放的なアメリカという場所を上手く利用している。何れも目立って奇抜な物ではないが、無難な設定を破綻無く作り上げる手腕はそれだけでも評価されていい。
シナリオ  ハッピーエンドで終わるラブストーリーはあらゆるジャンルに見られるものだが、オールハッピーで終わることが許されるのは、もはや少女マンガだけの特権と言っていいだろう。もちろんこの作品でもその特性はふんだんに生かされているわけだが、反面で弊害も起こってしまった。まず挙げられるのが過剰な登場人物の数にストーリーが耐えきれなくなってしまったことで、全体的に消化不良のまま話が終わってしまった。映画に対する一哉の夢も中途半端なままであるし(収をはじめとする日本の仲間たちとこれからどのように映画作りをしていくのか、ビジョンが全く見えないまま終わってしまった)、肝心の恋愛の方も最後の最後に出てきた障害が大した者ではなかったため、どこか釈然としないラストにつながってしまう。作品の一部分が際だってインフラ状態に陥る場合はその要因は大抵がストーリーの引き延ばしによって起こるのだが、キャラクターが膨らみすぎたのはめずらしいケースだ。
 また全ての争いを上手く収集させなければならないために、どうしても話の盛り上がりに欠けたり、リアリティが無くなっていってしまう。例えば彩と輝臣がくっつくところは前者、収と理花、聖としのぶ、キースとジョディがそれぞれつき合い出すところは後者の典型的な例で、いずれも全く伏線もなく話が突然始まったため不自然な形になってしまった。これがオムニバス形式の一話一話にオチが付く形であればまだごまかしようもあるが、連続したストーリー物であるともはやどうしようもなくなってしまう。細かい部分の破綻がないだけに実にもったいないところだ。
キャラクター  いずれもキャラクターが完全に決め打たれているため、全く言っていいほど問題がない。反対にあまりにわかりやすいキャラクターが遊びを生まない結果となり、プラスアルファの魅力を生まなくなってしまった。作者のコメントやおまけの4コマなど本来の物語以外の部分で大人気のケンジにしても、彼自身が目立って魅力的なキャラクターだと言うわけではない。他のキャラクター(主役から脇役に至るまで)全てがあまりにソツがなさすぎて、彼以外に(悪い言い方だが)イジリがいのあるキャラクターが無かったためだ。もちろんストーリーと関係ないところで必要以上に遊ぶ必要はないのだが、実際に優秀な作品は多少の遊びがあるのではないかと思う。主役は当然ながらストーリー上で最もクローズアップされているのだら、もう少し主役を喰ってしまうくらいの勢いがあるキャラクターがあれば面白かった。
グラフィック  実にシンプルな絵柄は好感が持てる。無論薄っぺらい背景や工夫のないコマ構成(コマ割りではなくコマ内の構成)はちょっといただけないが、比較的万人受けする安定感のある絵柄は特に人物を描くときに効力を発揮した。なかでも少女マンガにはめずらしい優秀なデフォルメの技術はストーリーを追うごとに成熟味を増し、そのビジュアル的なテクニックのみならず、タイミングの取り方なども完成度が高い。少女マンガ独自の手法(典型的なのは恥ずかしい時に顔の中心にかかる斜線)も上手く使われていて好感が持てた。
 逆に気になるのは妙に動きがとまって見える部分とスムーズに見える部分が同居している点だ。この作品は映画なりテレビなり、動画の世界を描いているわけでその中で少なからず映像作品の一部を描く場面が出てくるのだが、それらのカットにどうも臨場感が感じられない。「カットのつなぎ方が一哉らしくない」というセリフがあるのであればそれを絵で説明する必要はあると思うし(なければただの”説明的なセリフ”になってしまう)、物を動かすならば動作音だけではなく線の一本も引っ張って欲しい。シンプルと単純は違う物だし、人物がしっかりと描かれているだけに残念でならない。
装 丁  お馴染みのカバーには特に目立って個性的な部分はないが、カラーでの人物のイメージとモノクロでの人物のイメージに大きな相違のないのは嬉しい。表表紙の絵は主人公、着彩は平凡という没個性の見本のような装丁ではあるが、無難な作り方が読み手を安心させてくれる。