バケツでごはん (2001.10.8)〔w〕
作 者 玖保キリコ
連 載 小学館『ビッグコミックスピリッツ』
単行本 小学館ビッグスピリッツコミックススペシャル[全8巻]
【新装版】小学館ビッグスピリッツコミックススペシャル[全8巻]
ストーリー  上野原動物園に通う動物は、みな人間と同じように話をし、人間と同じ様な生活を送っている。中途採用で動物園に入ってきたペンギンのギンペーは、芸人の息子。お客さんを喜ばせることに生き甲斐を感じている。しかしペンギンの仲間たちは同じレベルのプロ根性はなく、ギンペーも中途採用であることにコンプレックスをもって……。
設 定  動物がしゃべるという設定はそれほど突飛なものではないし、ありきたりでもない。しかしその狙いを実現させるべく、さまざまなフォローがあるのがこの作品の素晴らしいところ。「秘密の地下鉄」で通勤し、秘匿は絶対であるため人間の人手不足に拍車がかかっているなど、細かい設定に抜け目がなく、自然にクリアできている。もちろんこれだけ極端な設定がベースになっているのだから、ところどころ破綻がないと言っては嘘になるが、シンプルなデフォルメタッチで描かれ、ストーリーもそう性急ではないため、それほど気にならない。全体の雰囲気がマッチしている点が効果的だったと言えるだろう。
シナリオ  始まりから終わりまで、実にまとまっている。もちろんスリリングな展開や迫力のあるシーンは存在しないが、ホッとするような展開は安心できて嬉しいところ。あえて難点を挙げれば、前半は準主役級であったサンペーの存在が結婚以来徐々に薄くなっていき、チェザーレにその位置を奪われたこと。もちろんそんな経過があっても構わないが、とってかわったのが最初の頃はまったくその存在が注目されていないチュザーレであったこと。これなら多少の伏線があってもよかったかもしれない。
キャラクター  完成度は抜群で、ギンペーのみならず、あらゆるキャラクターが個性的で魅力的。グッタンやオプチとペシミ、リヒャルトまでさりげなくフォローするなど、さりげなくストーリー中で消化するのが実に巧みだ。もちろんギンペーの両親などかなり特徴的・個性的で、注目したいキャラクターもいるのだが、ほとんどのキャラが完成度が高いためにかえって突出している部分が少なく、褒めづらくなってしまうという贅沢な悩みになってしまっている。
 ネーミングも悪くない。オプチとペシミはいわば名で体を表す典型的なパターンであるが、雰囲気を上手く作っているし、ミミやリヒャルト、チェザーレなどはキャラクターと上手くマッチングしている。オリジナルと手のヌキ方がうまく調和されていて、面白い。
グラフィック  シンプルなタッチで、由緒正しい「漫画らしい漫画」の絵柄が気持ちいい。適度にデフォルメされ、キャラクター化された絵柄は安定感抜群で、なによりストーリーやキャラクターとのマッチングが見事。同じペンギンでも上手い具合に差異をつけたり、色合いをトーンで工夫したりと、努力の跡が見え隠れしている。
装 丁  ハードカバーの装丁は思いのほか上質。作品の中身に対してあっているかというと、これほど凝る必要があったのかという疑問は残るが、出来自体は実にいい。おまけのパラパラ漫画などもいい味を出している。難点は、ハードカバーに反して軽い内容であるため、片手で持ってパラパラとは読めない点。パラパラ漫画も同様だ。
余 談  作者の作品に「シニカル・ヒステリー・アワー」という作品がある。少女誌に連載され、子供たちの生活を描いた、タイトルとは裏腹にかなりコミカルな作品なのだが、その中で仮装大会をする場面がある。ここで一郎とみちこという双子の兄妹が「一郎がみちこの、みちこが一郎の仮装をする」というネタが出てくる。
 本作にもこれとそっくりのシーンが登場する。ハロウィンパーティで「オプチがペシミの、ペシミがオプチの仮装をする」というもので、キャラクターは違えど、ネタは同じ。もちろん同じ作者の作品であるから、盗作ということにはならないのだが、釈然としないものを感じる。。
 作者がどういう意図でこの場面を描いたのかはわからない。確かにこのネタは非常に面白いし、2度3度と使えるものであれば使ってみたい。しかし、これはクリエイターとして明らかに堕落であると断言できる。もし、特別な意図があったというならば別であるが、両作を読む限り、そのような意図は探れなかった。