ここはグリーン・ウッド (2002.2.10)〔w〕
作 者 那須雪絵
連 載 白泉社『花とゆめ』
単行本 白泉社花とゆめコミックス[全11巻]
【愛蔵版】白泉社ジェッツコミックス[全4巻]
白泉社文庫[全6巻]
ストーリー  初恋の人が実の兄と結婚し、胃潰瘍で体を壊して学校を休んでいた蓮川一也は、緑都学園の寮「緑林寮」に入寮した。しかし、そのグリーン・ウッドには寮長の池田光流や生徒会長の手塚忍をはじめとして変わった人間が多く……
設 定  最大の特徴はもちろん「寮」。その寮生活がリアルに表現されていることに、この作品の価値がある。男子寮独特の手荒さや汚さ、遊び方やからかい方まで実にシュールに描かれているが、それが決して嫌みでなく、嫌悪感を呼ばない。神経質な者と豪放な者の間に生まれがちなカベも、光流や蓮川のキャラクターで緩衝することによって違和感の内容にしているし、実際に男子寮に住んだ経験のある者もケチのつけられない出来になったのではないだろうか。
 バックボーンも、出来合いのように見えるが実はなかなか上手く構成されている。蓮川の不幸な境遇と、それに気付かない意外にポジティブで心の強い性格、同様に不幸な境遇ながら、芯が強く明るい人を惹きつける光流、冷静でクールで時に冷酷ながらも、それでも完全に心をコントロールはしない忍、元気でわがままっぽい面もあるが、どこか品の良さも漂う瞬。彼らのそのバックボーンを、はっきりとサイドストーリーという形にしないことで(したのは、一弘とすみれの出会いのくだりだけだ)うまく消化している。蓮川の成長と共に、読者も彼らのことが徐々にわかっていく。なかなかこう、不自然さのでないように説明を同時進行していくのは案外難しいものではないかと思う。
 細かい点に目を配れば、ますますその綿密でマメな所がわかってくる。光流が自ら口にした
「おれのオーナーは入谷の鬼子母神と吉原弁財天」という発言。朝顔市で有名な入谷鬼子母神は安産・子育ての御利益があり、そこを光流の出生に引っかけているのは容易に推察できるし、吉原弁天はいうまでもなく日本一のソープ街吉原の真ん中にあり、七福神のうちでも唯一の女性である弁財天は美を象徴した神様だ。特に前者が前に来ているところが実に興味深い(しかも、どちらもそれほどメジャーな社寺ではないのだ)。詳細に見ていけば、続々と新たな発見がありそうで、楽しい。
シナリオ  学園モノにありがちな、進級に関するうやむやは感心できないし、妙なサイドストーリー(というか作り話)が余りに多すぎる。だが欠点は数々あれど、総合的に判断すればやはり優秀なポイントをつけられる出来に仕上がっているといえるだろう。
 とにかく、細かいテクニックが抜群に上手い。ラストの「おれがついてるよの使用例」などは発想として抜群だし(いかにも男子高校生がやりそうなことだ)、寮長引き継ぎの光流が蓮川に歌を歌わせるところも面白い。ショートゲームが抜群の威力をはっきりしているため、多少進む方向が定かではなくなったり、諸処にアラが目立っても、面白さで押し切ってしまう。といっても決して強引であるわけではなく、自然にノセられてしまうという表現がいちばんあっているだろうか。
 学祭・体育祭・修学旅行をはじめ、大抵の学校イベントを消化しているのもありがたい。とりあえず読者の興味としてはこのあたりの行事を見ておきたいものだし、ストーリーにもメリハリが出る。4人の間で共通ではない話題が出ることで、いい意味での錯誤が生まれるし、シナリオの幅も生まれる。それが最も顕著なのが、蓮川が新田美恵子に新幹線で出会うところだ。
キャラクター  全体的に学園モノを描けばキャラクターが立ちやすい少女漫画だが、この作品に限ってはその範疇を越えているといっていいのではないだろうか。まず、恋愛がキャラクターの生成にほとんど関与していない点。つまり、いわば交友関係の他にそれと同格かそれ以上の隠れた関係を作ることでシナリオを作り、その過程で個々のキャラクターがより露わになるという方法が、この作品ではとれない(仮にあるとしても、蓮川がよりペシミスティックに見えている程度のモノだ)。また、閉鎖的な学園環境の中でもさらに閉鎖性のある「寮」という狭い舞台を設定している。これにより、学校教師の関与が比較的描かれなくなっているし、寮生以外の生徒もゲスト的なポジションに落ち着く(名が出てくるのはほんの数名のみだ)。その制限あるなかでこれだけの個性的なキャラクターを書ききった手腕は見事だ。
 中心にいるのは蓮川・光流・忍・瞬の4人だが、このまわりかたもいい。あるいは夏季や冬季の休暇で忍や瞬がいなかったりすることもあるが、それを自然な流れに持っていくことで逆に違和感を払拭することに利用した。つまり、「いつも一緒にいる4人」ということになっては困るのだが、しかしなぜかいつも一緒にいてくれなければ困る。その微妙なところが上手く表現できていると思う。
 脇の描き方も見事。先輩としての古沢、アクセントとしての藤掛&渡辺、インパクトとしての盆田先輩やゲーセンの2人、影は薄くも欠かせないポジションにある栃沢や、兄姉として脇を締める一弘・すみれ。冒険のできない学園モノで、これだけのキャラクターをかける手腕がすばらしい。もちろん極端な味付けなく、職人的な技の勝利だ。あくまでキャラクターを描くのではなく、ストーリーの中にキャラクターを落とし込んでいるのが、その秘密だろう。
グラフィック  絵柄自体は、評価できる面も批判したい面もある。好みが分かれるところであろうが、一般的な男性が読むことのできるギリギリのラインであるし、細いタッチが読みづらさを招く。時折目を塗っていないカットがあるのも意図的なのだろうが、その意図がよく読めないし、髪の輪郭付近を塗らないのも意味がわからない。ただ、光流の格好良さや忍のクールさ、瞬の可愛さはうまく表現できているし、全般的にそれほど目くじら立てるような絵柄ではない。
 問題点があるとすれば、女性キャラクターがあまりにも魅力に欠ける。序盤のシナリオの要であるすみれちゃんは蓮川があそこまで入れ込むほどの美人には見えないし、五十嵐も同様だ。五十嵐に対して瞬が「それほどの美人には見えない」というフォローを入れているというのであれば、なおさらすみれちゃんのディテールにはこだわるべきだっただろう。確かに瞬のクオリティを高めるために他を犠牲にした面はあるだろうが、それでは根本的な説明にはなっていないと思う。
 また、カットの運び方や擬音の入れ方など、ネーム段階の問題点はとにかく目立つ。前半では特に、少女漫画特有の「はしょり」が目立ち、意味を理解するのに数回読み直さなければわからない所も多い(瞬が小便器で用を足していることで蓮川が男と気付くところなど、一瞬で誰でもわかるような表現ではないだろう)。つまりそういう読み方に慣れている、あるいはそういう描き方を容認するタイプの人でないと、なかなか立派な読者はつとまらない。上下のカットに似たようなタッチの擬音が重なって流れ方がわかりづらかったり、構図が上下左右にあまりに飛びすぎて判断がしづらかったりと、拙い部分は数限りない。ネームのセンスも前半はかなり拙く、勢い瞬のキャラクターが極端に女っぽくなったり幼く映ったりする。
装 丁  平凡なのはある程度致し方のない面もあるが、各巻の統一があまりにもとれていないのは頂けない。特に表表紙の絵柄の違いと、バック色の不統一。表表紙は、例えば2巻と9巻とでは全く種類が違う。別作品だと云われても納得してしまいそうだ。バック色に関してはいろいろ考え方もあるだろうが、「グリーン・ウッド」だけに緑に統一する手もあったのではないかと思う。