あした天気になあれ (2002.12.29)〔w〕
作 者 ちばてつや
連 載 講談社『週刊少年マガジン』
単行本 講談社少年マガジンコミックス[全58巻]
講談社コミックススペシャル[全31巻]
【愛蔵版】講談社ちばてつや全集[全36巻]
講談社漫画文庫[計:全31巻]
[アシスタントプロトーナメント編:全6巻]
[東太平洋オープン編:全8巻]
[東洋マッチプレー編:全6巻]
[全英オープン編:全11巻]
ストーリー  大食漢で小太りの中学生、向太陽は師匠の竜谷プロのもとでプロゴルファー目指して修行に明け暮れる毎日。定食屋を営む母、武二・攻三・糸子の3人の弟妹と貧しいながらも楽しい生活を送っている。ある日、太陽は同級生のエッコから大会の近いゴルフ部の助っ人を頼まれる。バイトや練習に忙しい太陽は一度は断るのだが……
設 定  SFを得意とする作者であるだけに、奇抜な情況設定には抜群の力量を見せつけている。ビデオから女の子が出てくるという「不思議」は考えつきそうでそうそう考えつかないことだし、またそんな「不思議」を乱発しなかったことがストーリーに抜群の臨場感を与えている。
 貴志の使い方も悪くない。後半でのあいとの絡みで不器用な性格が露呈され、結果的にもえみとの別れ方が不自然なものでは無くなった。中盤ではほとんど印象に残らなかったが、最終的にキーパーソンの一人なったのは描き方が上手かった証拠だろう。
 しかし細かいことを気にし出すと、今度はきりがないほどアラが見つかる。一番最初に出てくる草原の上に立ったショートカットの女の子は誰だったのか(あいでいいのか?)、松井は退院後どうなったのか。通常の少年漫画とは一風変わったテイストで押しているだけに、この辺の手抜きはいただけない。
シナリオ  奇想天外な打法や魔球が飛び交うゴルフ漫画(特に少年向け)の中で、比較的堅実な書き方が嬉しい。とはいっても、若干舞台設定には時間経過による風化が見られる。フェアウェイからドライバーで打つことはほとんどあり得ないことだし、現在ではフェアウェイウッドの方が逆に飛ぶ。パーシモンのクラブ(木でできたウッド)も今では絶滅状態だし、マッスルバックのアイアン、古臭いキャディバッグなど現在では通用しないものがうじゃうじゃ出てくる。最たるものは距離計測をメートル(現在ではヤードが主流)で行っているところだが、いずれも読むのに支障を来すレベルではないのは幸いだ。むしろポロシャツやベスト、サンバイザーがひっきりなしに登場するところから、道具は進化しても服飾面ではほとんど進化していないゴルフ界の閉鎖性まで垣間見ることが出来て興味深い。
 キャディの役割が面白い。アシスタントプロ時代は当然ながら一人で打開策を見つけていくわけだが、プロに入って徐々に力量のあるキャディが側に控えるようになる。特に今後もコンビを組み続けていくことを予感させるトムとの組み合わせはニクラス・レスというペアと比較して描かれており、前途という意味でも太陽の飛翔を上手く演出している。大食・爆睡など豪快な太陽とコンビを組み続けるにつれ、トムもだんだん似てきているのも面白いところだ。
キャラクター  前述の通り、実物のプロをキャラ借りが中盤以降で目立つ。これがひっきりなしに人気プロを登場させるようでは限りなく大味になってしまい、食傷気味にもなるところだが、謝健張(謝錦昇)、トラビノ(リー・トレビノ)、バレンチノ(セベ・バレステロス)、杉原(杉原輝雄)、青木(青木功)、ニクラス(ジャック・ニクラウス)など、錚々たる面々が出てきている割にはそんな感じもしない。ジャンボも倉本も中嶋もパーマーも出てこない、あるいはカイトやワトソンやノーマンが出てきても影が薄い。そんなところでうまくバランスをとっているからなのか、あるいはライバルとしての濃淡の色づけが巧みだかからか。
 ひとつの可能性として挙げられるのは、キャラ借りキャラとオリジナルキャラが混在していることだ。東太平洋オープンでは謝(実在)と安川、マッチプレーでは杉原(実在)→太田黒→青木(実在)→疋田と、バランスよく配置している。キャラ借りだけだとオリジナリティにかける。オリジナルばかりだとインパクトのあるキャラクターを作りづらい。これが最大の理由かは判然としないが、少年漫画としては上手く計算されているのは確かだ。
 でしゃばりすぎのように見える家族や師匠の竜谷、エッコたちの扱いも巧みだ。プロになるまではその姿勢を母や竜谷が叱り、プロになれば母や弟妹が良きサポーターとして機能する。そしてスコットランドに旅立ってからは、家族はただ1度を除いて、ただ声援を送るばかり。太陽の成長に合わせて、彼らの役割も徐々に交代する。それは最大のサポーターであるキャディを見つけるという、太陽の人徳的な成長にもよるもので、同時に太陽の成長を自然な形で表現する1つの方法ともなっているのだ。
 重箱の隅を敢えてつついてみると、東太平洋オープンではバレンチノだったバレステロスが、全英オープンではバレステロスとして登場していたりする。些細な問題にすぎないが、トラビノ(トレビノ)はそのままでていることを考えると、若干の違和感を感じずにはいられない。
グラフィック  明確にデブだった初期と比べると、最終巻では太陽は随分スリムになった。同時に試合中に食べ物にむさぶりつくといった「空腹度」は減っているように感じられるが、このあたりは長期連載のアヤというものだろう。
 絵柄という点では、圧倒的なバリューは感じられない。人物も作者ならではの味わいが楽しめるが、それ以上の何かは見つからないし、背景や構図で圧倒される部分もない。週刊連載の少年マンガとしてはもちろん、十分に合格点なのだが、絵だけで読者を惹きつけることは出来ないだろう。反対に、ストーリーで圧倒させるマンガであることを証明していることにもなるか。
装 丁  さすがに1巻と最終巻でははっきりと差がある。太陽の様子もそうだが、カラーリングからなにから全ての時間経過が2つの装丁で浮かび上がってくる。最終巻では太陽とトムを中心に、登場人物が勢揃い。注目したいのはやはりトムの存在で、後半にしか登場していないにも関わらず、いわば準主役であることをこの1枚が物語っている。あるいはここでストーリーの「その後」を暗示させたのか。
 意外なのは、1巻を見るとやや野暮ったく見えるロゴが、最終巻では不思議と違和感なく受け止められるところ。装丁デザイナーのレベルが向上したためではないかと考えられるが、受ける印象がかなり違う。もう1つは全巻を通して、裏が真っ白なこと。これは出版社の問題だが、もう少し余白を有効に使う方法はなかったものか。この作品だけでなく、シリーズを通して問題があったのではないかと思わざるを得ない。最も、途中の巻から突然突拍子もないものが入ってきても困りものだが……。
余 談  決してゴルフという競技は社会的に好感を持たれているものではない。道具もプレー代も高く、出かけるには車が必須。半数以上のコースがジャケットと襟付きのシャツ着用を義務づけ、環境破壊の現況ともなっている。勢い、大きなカネが飛び交い、常に裏社会とのつながりも噂される。しかし、これらは全て日本特有の問題である。
 スポーツとしてのゴルフは、球技としてはほぼ唯一高齢者でも楽しめるものとして貴重な存在だ。男女、腕前の差もティの位置やハンディキャップで調整が出来、4人1組で回る特殊なプレースタイルはコミュニケーションを図る上でしばしば大きな効力を発揮する。ショット時は無酸素、進行時は有酸素運動とバランスの良い運動ができ、アップダウンのある芝の上を10km近く歩くという、非常に健康的で有益な運動と成り得る。
 異常にダーディーなイメージがついている日本とは違い、海外では子供の頃からゴルフを気軽に楽しめる環境が揃っている。一方、この作品では太陽はかなり過酷な状況でゴルフを始めているが、その後も日本ではこの厳しい環境に変化がない。余程裕福な家庭に育たない限り、自発的に子供がゴルフに興味を持ち、始めることは日本では不可能と言っていい。
 ゴルファープレーするだけで、ゴルフ場利用税という消費税とは別の税金を取られる。もちろんゴルフ以外に、プレーしただけで税金を取られるというスポーツはない。競馬・競艇・競輪・オートレースの公営ギャンブルでさえ、国庫納付金、地方納付金として一定の金額を納めるが、名目上は税金ではないのだ。そもそも二重課税であるとの批判もあるし、これを子供からも徴収している現状はどう考えても異常である。しかるに社会は「ゴルフは金持ちのお遊びだから」という偏見によって見過ごされている現状がある。東京・八王子市ではジュニアゴルファー育成のために市がこれを代わって負担しようと市議が条例案を提出するなど、これを是正しようとする動きもあるが、まだまだ小さな流れにすぎない。現実に向太陽を日本から輩出するためには、あまりにも難しすぎる課題が残されているのだ。