ドラゴンクエスト列伝 ロトの紋章 (2005.8.4)〔w〕
原 作 ゲームドラゴンクエストシリーズ
設 定 川又千秋
脚 本 小柳順治
作 画 藤原カムイ
連 載 エニックス『少年ガンガン』
単行本 エニックス/スクウェアエニックスガンガンコミックス[全21巻]
ストーリー  勇者ロトの血を引く2人の兄弟が建国した国、ローランとカーメン。南の王国、カーメン王は邪神の神像を見た途端、正気を失ってしまう。生まれた息子を呪われた名前、ジャガンと名付けようとするが、王子はすんでの所で軍団長ボルゴイとその娘ルナフレアによって助けられた。天より下された名前、アルスと名付けられた王子は、ルナフレアと僧侶タルキンに守られて城を抜け出したアルスは、砂船乗りの親子、ギランとキラに助けられ、ハバラタにある仙人の隠れ郷で育てられることになる……。
設 定  大ヒットゲームをベースにした世界観は実に壮大なのだが、ゲームの世界観を読み手のほとんどが共有しているが故に、設定に説明を要しなかったと言うことは忘れてはいけない。「ロトの伝説」「竜族と人間との関係」「裏の世界」といった込み入った事柄もそうなのだが、「呪文」や「職業(勇者・僧侶・武闘家など)」「オーブ」など、「ドラクエ」という前提がなければわからない事柄が非常に多い。そのあたりのしたたかさを責めるつもりはないが、決して褒められるものでもないだろう。
 なぜなら「楽をした」分だけわかりやすい設定になってもいいものだが、掲載誌が幼年向きとは思えないほど込み入った内容になっているからだ。もちろん、深みを追求する方向へいってもいいわけだが、小学生も愛読する誌面では、それほど難解なものにはできないはず。一般的な作品としては及第以上の内容なのだが、「ドラクエ」という超A級の題材を借りている割には、期待通りのものに仕上がっているとは言えないだろう。
 しかし細かい部分を見ていけば、大河的なストーリーの割に、非常に繊細な作りになっている。勇者+3人のケンオウ(剣王、拳王、賢王)というパーティ構成はなかなか面白いし、一方の冥王と竜王、獣王という異魔神配下の構成も納得できる。既製の呪文とは違う創作した呪文(オクルーラなど)が唐突に登場するなど、難のある部分もないではないが、全般的にはストレスなく読み進められるレベルの仕上がりだろう。
シナリオ  脚本家を別に立てているためか、大河的なストーリーは迫力満点。特定の戦闘シーンが冗長になったり、話の流れが不自然になったりすることもなく、スムーズに読める。
 物語の盛り上がり方もダイナミックでいい。途中、アルスが死んで世界樹で蘇るなど、些かやりすぎの感があるのも否めないが、原作となっているゲームとのバランスを考えれば、それほど重大な問題とはなっていない。だが、序盤のヒロインであるルナフレアの死は、若干タイミングを誤った感がある。あまりにもその死が早すぎたため、後半に回想されるシーンでやや違和感を感じてしまうのだ。ルナフレアの父であるボルゴイが再登場することで、若干違和感は薄れた感じはするが、抜本的な解決には至っていない。そういう意味では、若干ストーリー自体を引き延ばしすぎた感がないでもない。
 細かい部分に目を向けると、呪文の使い方に拙さが見える。序盤はギラやバギといった低級魔法を出し、だんだんと大技を登場させてはいるのだが、その流れを中盤で使い切ってしまった。その間にもザキやメガンテという、使いようによってはいくらでも効果が出せそうな呪文を、簡単に使い切ってしまっており、なんとももったいない。一方で遊び人だったポロンが賢者になるくだりは心憎いばかりに絶妙だ。僧侶と魔法使いの間に生まれたという出自、父母と賢者カダルとの関係、強かった父母が敗れたのがマホトラを使うモンスターというエピソードなど、立て板に水が流れるかのように澱みがない。特に最後の点は、マホトーン(呪文封じの呪文)ではなく、マホトラ(MP=マジックパワーを奪う呪文)という点が、父母が最後まで闘ったという悲壮感をさりげなく演出している。
キャラクター  ロトの血を引く、3人のタイプの違う勇者たち。そして、アルスとは別の道程を経る剣王キラ、アルスと共に成長する拳王ヤオ、そして覚醒エピソードによって一気に能力に目覚める賢王ポロンの3人のケンオウ。彼ら、メインキャラクターを系統立てて設定したことは、とかく複雑になりがちなストーリー構成に大いに役立った。もちろんタルキン、ルナフレアは言うに及ばず、タオやボルゴイ、イヨ、イズナなどの主要なサブキャラクターも、それぞれの個性を放ちながら、メインのキャラクターたちを引き立てている。さらにゲーム版から輸入した形になっているルイーダなども、物語の要所を上手く下支えしながら、決して表に出すぎない、絶妙のポジショニングを保った。
 また、モンスターも上手く動かした格好だ。その最たる者が海王リバイアサンと竜王である。中でもラストで見せる竜王の特殊な立場は、ゲームを楽しんできた読者にとっては特にうれしいエピソードになっている。さらにポロンの仲間だったスライム・ドラキー・ゴーストは、キャラクターとしてのアクセントだけではなく、ストーリー上も重要な位置を占めるに至った。獣王グノンとの壮絶な戦いは、彼らの存在なくして語れないものだ。
 問題はヒロインが最後まで現れなかったこと。もちろんヤオやイヨなど、時に色っぽさを見せる女性キャラクターも多いのだが、肝心のアルスに密接に関わる女性キャラクターがいなかったことで、話の幅は広がらなかった。
グラフィック  絵柄はファンタジーものという観点では比較的オーソドックスなもの。奇を衒った印象を受けないし、最後までしっかり描かれた感じだ。特徴といえば、人物や建造物の描き込みの割に、全体的に白いスペースが多いこと。そのため、緻密に書かれている場面でも妙にあっさりした印象を受ける。描線も細く、トーンの仕様も控えめなことも影響しているだろうか。緊迫した場面での迫力にかける感じがするのは、そういった理由なのかもしれない。
 「恐怖」を露骨に描いている点が意外な印象。花畑で戯れる少女や、市中を歩く人々をいきなり魔王軍が殺戮する様子は凄惨そのもの。もちろん、最終的にザオリクや世界樹の葉などで復活することが多いわけだが、いささか行きすぎの感もないではない。 
装 丁  横長の表紙は実に珍しい。新書版サイズとしてはほとんど類を見ないものだが、これはゲームのパッケージを模したため、こんなデザインになったのだろうか。効果としてはワイドな絵柄を中央に、タイトルロゴを上部に置いた配置が非常に見やすくて素晴らしい。ただ、タイトルロゴは少々凝りすぎた印象で、色遣いの影響もあってか、一見してタイトルがわかりにくくなっているのは残念だ。
 背表紙の一枚絵は、現在では定番のスタイル。巻ごとに登場するキャラクターを当て込んでいるが、アルスが1巻にしか登場しない。本編では徐々に成長するアルスを違和感なく描いているが、全巻を並べて置いてみると非常に違和感がある。特にほぼ同じ背格好のアラン(ジャガン)、アステアが全く違うサイズで描かれているのはどうにも馴染めない。
 表表紙の袖に呪文の解説を入れているが、巻末に置けばページを開く手間がかかり、上下左右の余白に置けばフォントが小さくなって読みづらい。これは見事なアイデアだったと思う。