悪女(わる) (1999.9.29)〔w〕
作 者 深見じゅん
連 載 講談社『BE・LOVE』
単行本 講談社コミックスビーラブ[全37巻]
講談社漫画文庫[全19巻]
ストーリー  超一流商社近江物産に下等なコネで入社した田中麻理鈴は庶務課資材管理室へ配属される。会社のロビーで落としたコンパクトを拾ってくれた男性に一目惚れした麻理鈴は同じ部署の峰岸さんに「出世しなさい」と云われるが、教えてくれるのは掃除のおばさんの名前を覚えることだったり社史の暗記だったりと裏技ばかり。憧れの人のイニシャルがT・Oであることを知り…
設 定  普通の商社の一般職という滅多に取り上げられることのない立場の女子社員が主人公。非常にあたりまえの設定なのだが、あまりにあたりまえすぎてむしろ隙になっていた点を上手くついた見事な舞台設定だと思う。登場するキャラクターたちも特別特徴的ではないが、あまりに日常的な世界の中に出てくるとその個性は目立つ。偶然を多発させずに伏線や状況説明でドラマを作り上げるなど、絶妙なバランス感覚が見事。
シナリオ  最大の特徴はその展開の早さ。ジェットコースターのように凄まじい勢いでストーリーが進んでいく。カバーの装丁などからロールプレイングゲームのようだ、という感想もよく聞かれるが、主人公麻理鈴はRPGのように飛躍的にレベルアップしていくというわけではない。むしろ「打たれ強い」「芸達者」「ポジティブ」という三つの長所を武器にして、ひたすら頑張る。実はその三要素とも半先天的なもので、後から身につけようとするのは非常に難しいものなのだが、同時にこれらの要素はいずれもファジーなものなので自分も頑張れば麻理鈴のようになれるという期待を持つことが出来る。これが現実ではどんなに頑張ってもよくて佐々木や木村あたりのポジションに落ち着かざるを得なくなってしまうに違いないのだが、希望を持たせてくれるのがフィクションであるのならこの漫画は大成功といえるだろう。
 さらに、峰岸、オセロおじさん、板倉など一度出番の無くなったキャラクターを麻理鈴の生涯として立ちはだからせているのも興味深いところだ。読み手にとってはかつては麻理鈴の仲間だと思っていたキャラクターが敵として再出現すると意外性を覚えるし、同時にドラマ性という観点でもストーリーが盛り上がりやすい。
キャラクター  ストーリーが進んでいく上で必ずいつも麻理鈴を支える脇役がいる。それは涼子や梨田など女友達として支えるものだったり、小野や山瀬など麻理鈴に好意を抱く男性だったりするが、どのキャラクターも性格や立場(役職など)が違いバラエティーに富んでいる。だからといってそのキャラクターたちを見分けることが難しいと云うこともなく、ビジュアル的な面から行ってもキャラクターの確立には問題がない。
 しかし、本当にこの作品のキャラクター性が優れているのは同じパターンを繰り返さないところだ。確かに涼子も梨田も響子も結婚して麻理鈴の周りから消えて行くが、全てを知った風だった涼子に対して梨田は一度は小野の計略には待って麻理鈴を裏切るし、響子は平賀をヘルパーとして送り込む。もちろん結果的にはすべて解決されていくのだが、作者の工夫が伺える部分である。他にも麻理鈴を諦めてしまう山瀬と結局最後まで応援してしまう小野、直情径行な三島課長と温厚だが腹黒い佐伯課長などキャラクターの対比の連続でストーリーを進めている感さえある。
グラフィック  基本的にシンプル。背景は白やベタ、単一トーンが多いし、キャラクターを描く線も一本線。髪は基本的に真っ白か真っ黒で、激しいスピード線もない。単調なのだが、しかしそれが最高の演出につながっている。これだけストーリーが込み合い、下手をすると複雑になってしまう中で、わかりやすく暖かみのある絵柄は非常に有り難い。全体的に読み手にストレスを与えない印象があるのはこの絵柄に最大の原因があるだろう。
 絵の変遷は第一巻と最終巻とを読み比べてみればハッキリとわかる。しかし順を追って読破してみて果たしてそれに気づくか、というと甚だ疑問だ。冒頭の部分がやや眼がキラキラしているかなというくらいで、あとは男性読者にも抵抗を感じない描画がありがたい。グラフィック面で読者を選ぶことはまずないはずだ。
装 丁  内容とは対照的に非常に少女漫画らしいカバーになっている。ほぼ単色べた塗りの背景などあまり凝った作りになっていない所は中身と変わらないが、カラーに塗られた人物は上手いとは云えない。本来の絵柄がシンプルなため、色づけをすると逆にけばけばしくなってしまう。背面のRPG風の絵は連続ストーリーになっているのが面白い。背表紙はシンプルだが、真っ赤で目立つところがいかにも「悪女」っぽい。