電影少女 (1999.10.27)〔w〕
作 者 桂 正和
連 載 集英社『週刊少年ジャンプ』
単行本 集英社ジャンプコミックス[全15巻]
集英社ジャンプコミックススペシャル[全9巻]
集英社漫画文庫[全9巻]
ストーリー  もてない高校生弄内洋太は、憧れのもえみちゃんが親友貴志のことを好きなのを知る。そんなときに突然あらわれたビデオショップ「GOKURAKU」でジイさんから会員証をもらい借りたビデオを洋太が再生すると、画面の中から女の子が飛び出してきた。その女の子天野あいは自分が純粋な人間を慰めるために生まれた「ビデオガール」であるという…
設 定  SFを得意とする作者であるだけに、奇抜な情況設定には抜群の力量を見せつけている。ビデオから女の子が出てくるという「不思議」は考えつきそうでそうそう考えつかないことだし、またそんな「不思議」を乱発しなかったことがストーリーに抜群の臨場感を与えている。
 貴志の使い方も悪くない。後半でのあいとの絡みで不器用な性格が露呈され、結果的にもえみとの別れ方が不自然なものでは無くなった。中盤ではほとんど印象に残らなかったが、最終的にキーパーソンの一人なったのは描き方が上手かった証拠だろう。
 しかし細かいことを気にし出すと、今度はきりがないほどアラが見つかる。一番最初に出てくる草原の上に立ったショートカットの女の子は誰だったのか(あいでいいのか?)、松井は退院後どうなったのか。通常の少年漫画とは一風変わったテイストで押しているだけに、この辺の手抜きはいただけない。
シナリオ  はっきりいって「LEN編」は問題外だと思う。続編にするなり、番外編にするなどの方法は取れなかったものか。
 一方で「AI編」の終わり方はいい。バッドエンドではなくて良かったと思う。しかし、それに持っていくための伏線である「ココロ君」の絵本の登場がやや遅すぎたのではないか。コンクールに落ちた直後でも良かったし、田頭さんに絵本作りを勧められてからでもいい。もう少し時間をかけないと伏線が伏線でなくなったり、その効果が十分に得られなくなってしまう。
 また、特に後半に多く見られるのだが、登場人物の心理をト書きやナレーションの様に説明してしまっているのが残念だ。これでは様々な葛藤や微妙に揺れ動く心理状態が、またキャラクター達がどういう考えでアクションを起こしているかが、ひどく冷めた視線で説明されてしまう。いうまでもなく、そんな部分はカットやセリフで説明したほうがスマートだし、よりリアリティが生まれるものだが、それを敢えてやらなかったという風には見えない。むしろ、時間やページ上の都合で省略してしまったような印象を受けた。さらに問題なのは絵やセリフで味気ない説明をしておきながら、その上にわざわざト書きで説明の上書きをしている箇所である。表現の重複は、効果をどうこういう以前のごく初歩的なミスポイントだ。
キャラクター  それぞれのキャラクター分けが非常にうまくいっている。「AI編」では、最終的にあいだけではなくもえみや伸子も髪型がショートカットになってしまう。「失恋=髪を切る」という安易な発想が見え隠れするのは頂けないが、これで個性が消えると云うことはない。これは絵に頼らないキャラクター作りができあがっている証拠だと言える。実は洋太と同レベルか、もしくはそれ以上に臆病で鈍く、繊細で優しい貴志の存在も面白く、作品の中で貴重なポジションを占めるとともに、彼の存在で女の子だらけの作品に幅が広がった。
 様々な恋愛を経ていく内に徐々に成長していく洋太の描き方も悪くない。実際に思春期に男は別人のように変わっていくことがあるし、事実、洋太に厳しい体験をさせているためリアリティが薄れることもない。最近同様の手法が青年各誌で見られるようになったためやや斬新さに欠けて見えてしまう面もあるが、今後もキャラクター表現の効果的な手法の一つとして重要な位置を占めていくことだろう。
グラフィック  絵柄に大きな変化はないが、それでも最初と最後ではハッキリとわかるくらいの差違はある。とはいえそれは最初と最後でどちらが上手い、と云うほどのものではないし、別段違和感を覚えるものでもなかった。トータルバランスはまずまず問題ないといっていい。
 人物を描くことに関しては、その手腕に文句を付ける部分はない。絵柄そのものの美しさ、繊細さもさることながら、雨や涙、光と影、デザイン的にも評価できるバックまで全てが素晴らしい。なかでもキャラクターの個性をより明確にしたファッションデザインや髪型は精巧かつ緻密で、洋太の頭の刈り上げ部分などはただのカケアミであるにもかかわらず、これを上回る表現方法はないのではないかと思えるほどバランス感覚に長けたものになっている。贅沢を言えば、緊迫した場面での迫力と効果音を表す絵文字にもう少し工夫があればと思う。
装 丁  表紙は淡い単調なバックにハイセンスな背景と女の子。背表紙には(一部重複もあるが)登場人物が描かれ、裏表紙は無地。独特なフォントで表現される作品タイトルを含め、なかなかハイセンスだ。カバーをとればビデオテープが描かれていて(ラベルの部分に表記を持ってきるところがエライ!)、モノトーンの効果を駆使した目次までとにかく凝っている。残念なのは新書サイズであることで、価格が多少上がったとしてもB6サイズで見たかった。独特の雰囲気を持った作品であるだけに、カバーの材質などにも工夫があればなお良かったのではないかと思う。