あすなろ白書 (1999.12.8)〔w〕
作 者 柴門ふみ
連 載 小学館『ビッグコミックスピリッツ』
単行本 小学館ビッグコミックススペシャル[全6巻、うち第U部3巻]
小学館文庫[全4巻]
ストーリー  陸上による体育大学推薦を断った園田なるみは、予備校の冬期講習で間違ってハイレベルのコースを選択してしまう。そこで出会った仲間はみな優秀で、個性の強い人たちだった。同級生で国際政治学者を目指す早稲田志望の取手、財閥の御曹司で慶応志望の松岡、東大に入って官僚になりたい星香、そして母子家庭で育ち、ちょっと謎めいた掛居。一年後、大学に合格したなるみは学校で取手と再会する。彼らは「あすなろ会」というグループを作っていて、なるみもそれに誘われるが……
設 定  作品の中心となる「あすなろ」たち。掛居・なるみという二人のキャラクターを軸に、取手・松岡・星香、さらには空良と、彼らに深く関わっていく仲間たちとの物語は実に精錬された構成によるものだ。第U部ではそれに京子と秋庭が絡んでくるわけだが、全体的にバランスがよく展開に外連味がない。前半の一つのヤマである松岡の死もなかなか刺激的だが、その時車に同乗していたのが掛居ではなく取手であったことは必要以上にストーリーを重苦しくしていないし、その後の空良の存在意義の大きさを考えると非常に効果的な展開であったといえる。
シナリオ  テンポがいい。決して軽い中身ではないのだが、流れるようなストーリーがストレスを感じない。仮にストレスを感じるのであることがあればそれは構成、展開によるものではなく、作品のカラーが読み手に合うか合わないかの問題であると思う。ややシリアスな面もあるが、全体的にバランスの良いラブストーリーに仕上がった。非常に軽いセリフ回しも恋愛ドラマにぴったりで、幾分説明的なセリフもあるものの書きづらい感情的な文句などを上手く消化されており、評価できる。細々とした伏線などは心憎いばかりで、読むたびに様々な貌を見せてくれる不思議なストーリーだ。
 気にかかるのはなぜわざわざ2部構成になっているのか。おそらくはじめに構成や展開を考えてから描かれた作品ではないのだろうが、キャラクターにもシナリオにも別段変革が見られないだけに疑問は残る。あるいはテレビ化などメディアとの絡みもあったのかもしれないが、トータルのバランスが崩れた印象は拭えない。
キャラクター  登場するキャラクターたちはそのほとんどが理論的であり、時に理屈っぽい。それは掛居や取手、松岡などから京子やホストクラブの客までほとんど全てのキャラクターに至っており、その中でなるみや掛居の母などが例外的に感情的だ。そういった2極のキャラクターの対比がドラマ性を生み出し、2極のキャラクターがそれぞれお互いに刺激されることによって成長していく(つまりは互いの極にすり寄っていく)様子がストーリーを主に構成していく要素となっている。
 また、この作品で表現される理論は目立ってインテリ的だ。舞台が有名大学を目指す青年たちの物語であるのもその大きな理由ではあるが、彼らの発するひどく理屈っぽい会話も原因になっている。掛居が空良の相談に乗るところでは、掛居はまるで自分と対等の存在に語りかけるように話す。大人が子供に説得する、あるいは諭すような言い方ではなく、アドバイスを与えるように客観的で具体的な説明をするのだ。その理屈もいわゆる理数系の「データ」に基づく傾向論ではなく、やや哲学的な論法に基づくもので、ますますその論理性に拍車がかかっている。たとえば「嘘を付くのは悪いことじゃない。嘘を付いた方が人が傷つかない場合もあるんだ」と言われるのと「嘘を付くのは悪いことじゃない。自分が嘘つきだとわかっていれば傲慢な人間になることはないから」といわれるのではどっちが理屈っぽく感じるだろうか。
グラフィック  絵柄は賛否両論あるだろう。多くのファンを獲得する者ではないと思うが、恋愛を描く上ではまず問題はない。気になるのは背景とのマッチングで、繊細なバックに対して人物は非常に大胆に描かれており時に違和感を感じる。あるいは背景はアシスタントが描いているのかも知れないが、トータルのコーディネートにもう少し心配りがあってもいいのではないか。
 流れるようなストーリーを助長するようにカット割りも工夫されている。しかし残念ながらその工夫が空回りしている場面も少なくない。まるでテレビドラマのような連続カットなどは確かに面白くはあるが、1カットが小さすぎて迫力に欠けてしまった。
装 丁  青年漫画を単行本化するにあたり、一般的なB6版ではなくあえて大きめのA5版にするのは、それなりの理由があってしかるべきだ。しかし、この作品に関しては全くその意図が分からない。T部とU部のデザインを替えている理由もわからないし、そもそもそれぞれのデザインそのものが内容とマッチングしていない。作者の絵はあくまでストーリーに乗せてこそその魅力が発揮されるタイプのものであり、絵画のような動きのない表紙絵には向かないような気がする。もっとシンプルな表紙でよく、カバーにわざわざ高級感のある素材を使う必要もなかった。