なんぎな奥さん (2000.10.6)〔w〕
作 者 入江紀子
連 載 白泉社『シルキー』『シルキーリップス』
単行本 白泉社レディースコミック[全5巻]
ストーリー  新婚3ヶ月の夫婦、食品メーカーサラリーマンの夏央と漫画家の綾奈は、夏央の会社が倒産してしまって困惑する。云いたいことを隠さず云う明るい妻と誠実で包容力のある夫はまるで漫才のような肩の張らないユニークな夫婦生活を送っていたが、数々のトラブルに巻き込まれてしまい……。
設 定  それほど突出したインパクトはない。夫はサラリーマン、妻は漫画家。漫画家という職業は一般的にかなり特異な存在なのだが、作者の立場からしてみれば最も描きやすいであろう職業であり、また諸々の漫画に頻繁に登場する職業でもあるので(ひょっとしたらサラリーマンや専業主婦より多いのではないだろうか?!)、目新しさを感じない。
 面白いのは、存外登場人物が少ないところである。主に夫婦の生活を描いているため、他に固定のキャラクターがほとんど存在しない。編集者や漫画家が数人出てくるが、それも毎回出てくるわけではなく、印象もそれほど強くない。しかし、そのため主題がはっきりして、作者が描きたい物が鮮明に見えるようになった。連続した不定期の読切というスタイルが功を奏したのかもしれない。
シナリオ  往々にして、女性漫画はシンプルだが奥行きのあるストーリーを最大の武器としていることが多い。この作品も多分に漏れず完成度の高いストーリーが屋台骨を支えている。
 白眉は中盤以降にある。夫婦間の1つの理想型を具体的に描いているところも秀逸だが、むしろ注目したいのは人間関係に様々な形で亀裂が入るストーリーで、中でも9話の展開はスリリングで迫力がある。この話では結果的に「悪者」的に描かれているいくえちゃんの、あるいは主人公である夏央の、それぞれの悪い部分を明け透けに描いている。もちろんその度合いや頻度が寄り多いのはいくえちゃんのほうなのだが、決して彼女も絶対的な悪として描かれてはいない。意外に思ったことをズケズケとは言わない夏夫には、彼女の大人としての部分を感じ、リアリティを追求することで人間のとしてどのようにあるべきかを読者に投げかけている。押しつけがましくなく、こういった提起を行っている手腕は見事だ。
キャラクター  あくまでも、夏央が主人公であるのがいいのかもしれない。2人のうち、より特異なのはやはりダンナの方だろうと思うし、実際にフキダシ外で描いているツマの心理描写は、説明方法として効果的だ。いわゆる「コトバによる説明」が嫌いな人、もしくは意識レベルの高い(つまり、安易な表現方法だけに堕落と見なしてしまう)人もいるかと思うが、十分に許容範囲ではないかと思う。これはカット割りや構成、特殊な技法でそういった心理を表すタイプではなく、むしろ絵そのものによってそれを表現していこうというスタイルを取っているように受け止められるからである。前者を追求する作家なら確かにセリフ説明や、「天の声」説明に頼ることは許されないが、後者の場合はそれほど問題は起きないのではないかと思う。また、そもそもこの題材には緻密な構成やカット割りは似合わないのではないだろうか。
グラフィック  女性向きの漫画としては至って平凡。比較的シンプルな背景や特別な技巧のない描画など、スムーズに読ませる事を身上としていることがありありとわかる。奇を衒わない、堅実な描き方は好感が持てるし、わりと頻繁に挿入されるディフォルメが効果的だ。ただ、やはり「平凡」というイメージは払拭できないのだが、不満に感じることはない。ストーリーを盛り上げるための黒子に徹している印象だ。
装 丁  グラフィック同様、こちらも至って平凡。カラー化したことでキャラクターのイメージが変わることもないし、背表紙、裏表紙に工夫があるわけでもない。良くも悪くもない、至って無難な装丁。